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折れたつるぎ [自作小説]

 

「一泡吹かせてやる!」

自信に満ちた瞳で彼は言った。
なるほど、彼は確かに剣の技量があるのだろう。
俊敏な身のこなし、完璧な剣の型。
力を出すための筋肉も程よくついている。足運びもまずまず。
おまけに顔の造作も悪くないときた。
けれど、所謂井の中の蛙。

彼の周りにいる者達の中に、彼に教える事の出来る者が何人いると思っているのだろう。
踊りに長けたご婦人が、初心者を上手くリードして教えていくように、巧みに剣のリズムを操っている。
彼の力を引き出すのに長けている。
ならば、私はそれを断ち切ってみせよう。
恐らく、私は彼にとってやり難い者の一人になるだろう。

 

すらりと鞘から解き放たれるは、意匠を凝らしたものではなく、大した飾りもない、使い込まれた古い剣。
懐かしい重さと手ごたえと、自分の指の形がつくまで親しんだ、私の剣。
あの者の驕りを振り払うために、さあ共に。



彼は悔しそうに、遠く離れた剣の切っ先を見つめていた。
「お前の名は? さぞや名高い剣士だったのだろうな」
「とんでもない。名など知れておりませんよ。どこにでもいる、ごく普通の旅人でございます」


老いた兵は、国を出て彷徨い歩く。
領地も君主も捨てたその身には、若人を見守る役目。
されどそろそろ、ここではないどこかに骨を埋めましょうか。

 

お題提供 月と戯れる猫

 

 


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