永遠には程遠くても、できるだけ長い時間を一緒に [自作小説]
木の枝が頬を掠める。
痛みが走ったが、足を止めて待っている痛みの方が勝っている事は、百も承知。
握っている手をきつく握り締めると、相手も強く握り返す。
夜空の月は雲に隠れ、星明りもほとんど見えない。
こちらにとっては好都合と、木々の陰に身を潜めながらも走り抜ける。
気配を消しながらも、一刻も早くこの場から、遠く、遠く逃げなければ。
「貴方を殺す」
「ならば、お前を殺す」
にらみ合った途端、すうっと背筋が冷えた。
お互いに看取った仲間の顔が浮かんでは消える。
それと同時に、互いを想った瞬間も気持ちも思い出してしまう。
構えた銃身を下ろす。
相手も腕を下げ、ホルスターに戻す。
潜ませておいたナイフも、取る気になれない。
殺気が消えて、二人見つめる。
仕方無しに笑う。
決意を秘めた瞳で見返す。
「逃げるか」
「ええ」
君と共に。
貴方と共に。
同じ思いを抱えて、一瞬のうちに走り出す。
すぐに追っ手はやって来るだろう。
どちらの死体も転がっていない事に気づいて。
闇に葬ろうと執行人が迫ってくる。
それでもこの時間だけは。
逃げきれるとはどちらも思っていないけれど。
今まで触れ合えなかったぶん、この時だけでも共に。
永遠よりも尊い、確かな時間を。
2012-10-12 05:00
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