ふるえる心臓の声 [自作小説]
どきん、どきんと胸が鳴った。
目の前で呑気に、顔に似合わない幼い寝息をたてる彼を見ながら、思う。
――これがチャンスだ。
赤い唇の、彼の横に手を突く。
僅かに寝台が軋んだ音をたてた。
起きているんでしょう?
何度も何度も違うと否定した言葉を、口に出す。
すると彼は、ゆっくりとあの吸い込まれるような瞳を覗かせながら薄く笑った。
いつまで経っても煮え切らない奴だな、お前は?
煮え切らない?
言っているでしょう。私は、貴方が大嫌いです。
そう言うと、とても可笑しい冗談を聞いたというように、彼は笑う。
とてもそう思ってるようには見えないけどな?
まあ、せいぜい足掻いてろ。
いずれ、逃げたくても逃げられないようにしてやるから。
大丈夫、大嫌いです。お決まりの台詞を返す。
違うだろう? 本当は。
好きなのだろう? 本当は。
とっくに逃げ出せなくなっている。当の昔に、私は。
熱くなる頬を見咎められたのか、彼は至極満足そうに、笑った。
2012-10-07 05:00
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