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ふるえる心臓の声 [自作小説]

 

 どきん、どきんと胸が鳴った。
 目の前で呑気に、顔に似合わない幼い寝息をたてる彼を見ながら、思う。


 ――これがチャンスだ。



 赤い唇の、彼の横に手を突く。
 僅かに寝台が軋んだ音をたてた。


 起きているんでしょう?



 何度も何度も違うと否定した言葉を、口に出す。
 すると彼は、ゆっくりとあの吸い込まれるような瞳を覗かせながら薄く笑った。


 いつまで経っても煮え切らない奴だな、お前は?


 煮え切らない?
 言っているでしょう。私は、貴方が大嫌いです。



 そう言うと、とても可笑しい冗談を聞いたというように、彼は笑う。


 とてもそう思ってるようには見えないけどな?
 まあ、せいぜい足掻いてろ。
 いずれ、逃げたくても逃げられないようにしてやるから。

 大丈夫、大嫌いです。お決まりの台詞を返す。



 違うだろう? 本当は。
 好きなのだろう? 本当は。
 とっくに逃げ出せなくなっている。当の昔に、私は。


 熱くなる頬を見咎められたのか、彼は至極満足そうに、笑った。

 

お題提供 月と戯れる猫

 

 


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