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花園のワルツ [今日からマ王!]


「うわー、あっちぃ」
 ぱたぱたと精一杯の抵抗で、手で仰いでみる。
 微風がそよぐも、その動作のせいで余計に暑く、自然の風が吹くのを今か今かと待ち望む。
 そんなある日の午後。

「暑いならば室内にいればいいだろう」
「いやー。日陰だったら幾分涼しいじゃん? 外に居たいんだよ。でも今は陽が高すぎるからさ。
 東屋にいるの。日本に比べれば湿度が少なくてすごく快適なんだけど、やっぱり暑い」
「どっちなんだ」
 ふう、と呆れた様子でグウェンダルが近くの席に腰を下ろす。
 ようやく仕事も一段落し、二人揃って軽めのティータイムを庭園で楽しんでいた。
 きーんとするほど冷たい紅茶を、体のために口元で温めながらゆっくりゆっくり嚥下する。
「ふー、最高。少し風も出てきたし、何だか眠りそうだなー」
「そうか。なら夜までいるといい」
「・・・なんで?」
 どういう意味だろう?
 幾ら彼でも、敵意を透かす嫌味を言うほど、おれを嫌ってはいないはずだ。
 ならこの台詞は嫌味ではない、別の理由があるのだろう。

「母上が」
「ツェリ様?」
「今から考えれば、あれは咄嗟の作り話だったのかもしれないが、
 綺麗な月が照らす晩は、花の隙間から妖精が出てくるのだそうだ」
「妖精ぃ? あ、ごめん」
「今よりずっと。お前よりも小さい、グレタくらいの年齢だった私は真に受けてな」
 お前よりも、のところがちょっと強調されたような気がしたのは、気のせいだろうか。
「それで、ほら・・・・・・あそこの日時計を広場にして妖精が踊り、地の霊を喜ばせるんだそうだ。
 それが見たくて、寝所を抜け出してここで一晩過ごした事がある」
「大騒ぎになったんじゃねぇ? そのころはもうツェリ様は魔王になってたんだろ?
 王子様が行方不明って国家の一大事だろ」
「どうだったか・・・酷く怒られた、という記憶は無いのだが」
 きっとあまりにも純粋すぎて怒れなかった、とかそういうオチかもしれない。
「妖精のダンスねー。グレタとかも喜びそうだな」
「なんなら見てみるか?」
「何を?」
「『花園の円舞曲』だ。たしか今年だったと思うが、41年ごとにしか花が咲かない珍しい花があってな」
「微妙な年数だなー」
「そう言うな。開花して一日ともたない儚い花を鑑賞するのと共に、夜会が開かれるんだ。
 妖精とまではいかないが、貴族の娘達が社交界に名を連ねるきっかけの一つでもある」
 お披露目パーティーというわけか。あれ? それって・・・

 

「もしかして、おれ主催者側? 出なくちゃ駄目?」
「当たり前だろう、城での催しだぞ。もちろん、踊りもこなさなければ各国の要人の手前、面目が立たない」
「うわああ、やっぱりかー」
 ワルツなんて踊れない! 幼女と人妻とのダンスしかしたことないし。
 あとは、まあ。諸々やってはみたものの。
「・・・・・・練習しておくんだな」
 コンラートがとても上手だから、と呟くグウェンダル。
「あんたは? 踊るの上手?」
「コンラートの方が上手い」
「んじゃ一般、普通レベルからすれば見れるくらいには上手い?」
「・・・恐らく」
「じゃあおれとの練習、たまにでいいから付き合ってくれない? 前船上パーティーで見たんだけどさ。
 こっちでも外国の女の子って背が高いの! グウェンくらいの背の子までいたんだぜ?
 魔王の前に、男子としての面目がたたねーよ!」
 ううう、と崩れるユーリに、それはもしかして女装したグリエなのでは、と思ったグウェンダルだったが、
 何となく言い出すのははばかられた。やる気になったのは良いことだ。

 

 本番当日、勘違いに気づいた有利が開き直って発した、「グウェンダル踊ろう」。
 そんなやけくそ半分の軽口にしてやられるのは、また別のお話。

 

お題提供 月と戯れる猫

 

 


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