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強さだけを求めた。何が悪い? [自作小説]

(5話目/8話)

 

「あーあ、よく寝た。さて、今日は何をしようか・・・」
「おい、その前にこれを外しやがれ」
「あ、いたのかい? というかその状態なら自分でも解けるんじゃないのかな」
「解けたらっ、まずいだろうが!」
 一々了解を得て行動するのも癪だが、後々厄介な事を言い出されでもしたら、たまったもんじゃねぇからな。
 女・・・碓井だったか、そいつはもう一つ大きな欠伸をすると、
 じゃあこれを外したら何をしようかね、などと寝ぼけ眼でのたのた近寄ってきた。


「朝ごはん作るの面倒だなあ」
「・・・もう昼近いけどな」
「私が起きた時から始まりなんだよ。ということは始まり、イコール朝だろう」
 いや、違うと思う。
 しかし、そこで反論するとややこしい屁理屈が返ってきそうなのでやめた。
 我ながら賢明な判断だと思う。
「よし、やっぱりご飯は大事だよね。インスタントでいいかい?」
「・・・何でも」
「そう? なら良かった。おにぎりと味噌汁でいいかな。休みはいつも手抜きなんだ。
 いや、仕事の時もだけど」
 たまにかな、自分に豪勢な食事を作るって。
 苦笑しながらガスコンロのスイッチを入れた。
 保温していたらしい炊飯器から白飯を取り出すと、サランラップに包んで手のひらに置く。
 ・・・ラップって、餓鬼みたいだな。
「おかかと、梅干し。あ、梅干し大丈夫? 食べられるかい?」
「なめんな。食べられるに決まってんだろ」
「健康的だね。その分じゃ子どもの頃、毎朝ラジオ体操してたクチだろう」
「・・・・・・」
「こりゃ失敬」
 くくっと小さく笑い、あっという間に握り飯を作ってしまうと、
 沸騰までは至っていないお湯に粉末のいりこだしを入れる。
「「あ」」
 こんなに大量の出汁入れやがって。寝ぼけてんじゃねえだろうな?
 そんな気持ちで横目で見れば、碓井は乾いた笑いを漏らした。
「大丈夫。ダシは幾ら入れても美味しい。それは経験済みだ。保証する」
「つまり、何回もダシを入れすぎていると」
「朝はね、手が滑るんだよ。カルシウムに飢えてるからね」
「どういう理屈だ・・・」

 味噌を溶いて、ネギと油揚げを入れて、仕上げに乾燥ワカメを投じれば立派な味噌汁。
 豆腐が足りないが、まあそこはご愛嬌。ようするに眠気と無精が豆腐の存在を見事打ち消してみせた。
「お前なあ、沸騰寸前だったぞ。味噌汁は煮立ったら不味いんだろ?」
「おや、よく知ってるね。でも君はちょっと残念な味の味噌汁と、
 社会的に重要なニュースを知る機会であれば、どちらを取るべきだと思う?」
「ニュースで腹が膨れるか。おれは上手いモンを食べたい」
 っていうか、お前がニュースを見なけりゃ残念な味にはならないんだよ。
「やれやれ、口煩いことだね。しかし、美味しいものを食べたいという欲求はいいことだと思うよ。
 将来料理をしたいと思うようになるかもしれないし。喧嘩するよりはそのほうがずっと健康的だ」
「・・・・・・」
「さあ、そっちが君の分。ああ、そっちじゃなくてソファで食べよう。なあに、こぼしはしないよ。
 そのために紙コップに入れたんだからね」

 物臭もここに極まれり。
 握り飯を置いた皿と、味噌汁が入った紙コップを持ってソファに陣取る。
 テレビのリモコンを操作し、映画を流し始めた。
「これ昨日借りてきたんだけど、明日には返さないといけないんだよね。
 そこでぼーっとするつもりなら、一緒に見るといい。ポップコーンは品切れだけど、どうぞお席へ」
 すっかりペースに巻き込まれているのが分かったが、逆らう理由もなく。
 珍しく大人の意見に従う自分に自分で驚きながらも、大人しく味噌汁をすすったのだった。
 しょっぱすぎた。

「そういえば、なんで昨日は喧嘩してたんだい? 何かの修行中?」
「はぁ? どういう思考してそうなんだ? 単にあいつらが気に食わないの」
「そんでちょっかいだして追いかけられて、最終的には殴られっぱなしになるんだろ?」
 むっとすると、酷い顔してるよと淡々と返された。淡々としすぎていて腹がたたない。何故だ。
「俺だって殴り返したさ。殴られっぱなしじゃねえ」
「別に殴らなくてもいいと思うんだ。勝負に命をかけてると、さらに気持ちが荒んできそうじゃないか。
 例えば速く走れるとか、早く計算が出来るとか、上手に絵を描けるとかの勝負じゃいけないものかね?
 ほら、映画であるだろ。この場所かけてバスケで決めようぜ、みたいな」
「近場にバスケットリングねーし」
「・・・そうなの?」
「ああ・・・・・・って、違ぇ!」
 そんな平和的な青春解決法は望んでない。んな仲良しこよしな関係はあっちだって門前払いだろう。
「あいつらに格の違いを分からせてやるんだ。俺のほうが強いってな。
 それだったら拳が一番分かりやすいだろうが」
「ならボクシングでも始めて鬱憤を昇華させればいいのにね。
 年頃の男の子って、やっぱり気持ちが理解できないな」
 そう言いながら口いっぱいに握り飯を頬張った。おい、ギリギリの量だろうが。
「ハムスターみたいだな」
「もんが?」
「お前の姿を今すぐ見せてやりたいよ」
 どういう食べ方をしたのか、鼻の頭にくっついていたご飯粒を取ってやった。

 

 

お題提供 月と戯れる猫

 


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リンさん

お久しぶりです。
新しい連載が始まっていたんですね。
すごく面白いです。
キャラがいいですね。
この少年は高校生かな?悪ガキだけど根っからすれていないのがわかります。
あと、なんといっても男前のおねえさんがいいですね。
カラッとしていて天然っぽいところが面白い。
8話で終わるってことは、最初から結末を考えているんですよね。
すごいなあ。そういう書き方って私には出来ないんですよね~^^;
by リンさん (2012-10-31 16:22) 

愛輝

リンさん(さん)

お久しぶりです~vv
引っ越しでバタバタしていまして、返信できずにいました;
すいません。

面白いですか、よかった!!
一度こういうキャラクターを書いてみたかったんですよね。
お察しの通り、高校生の男の子と、ちょっと…(かな?)ずれてる女性です。

この話は、実はユビキリと同時進行で書いていたもので、このシリーズの1話をアップした時点で完結していたんです。
私も、話数を決めて書くような器用な技はまだ未習得です;

でも、キャラクターがいいなんて、嬉しいですねvV
癖のあるキャラが作れるように、リンさんを見習いたいと思います!
(パクリというわけじゃないですよ;念のため)
by 愛輝 (2012-11-13 13:23) 

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